【施設外観写真①】
宝塚せいれいの里
種別:
介護付有料老人ホーム
特別養護老人ホーム
介護付軽費老人ホーム
使用ツール:
介護リフト(天井走行式・床走行式・固定式)
非装着移乗支援機器
スライディングボード・シート
取材日:2026/04
リフト導入をいち早く実践
兵庫県宝塚市にある「宝塚せいれいの里」(運営:社会福祉法人 聖隷福祉事業団)は、介護付有料老人ホーム「結いホーム宝塚」、特別養護老人ホーム「宝塚すみれ栄光園」、介護付経費老人ホーム「ケアハウス宝塚」などを有する高齢者複合施設です。
介護現場におけるリフト導入は、以前よりもずいぶんと進んできました。しかし「導入したものの使われない」という声も少なくないのが現実です。
そんな中、宝塚せいれいの里では5年をかけて、「使うのが当たり前」という文化を現場に根付かせました。
その背景には、単なる機器導入ではない、現場に根ざした独自の工夫がありました。今回は、こうした取り組みの背景と成果について、現場スタッフの声を交えてご紹介します。

導入前の課題ー出発点は「腰痛」と「現場のリアル」ー
こちらの施設でリフト導入が検討された背景には、明確な課題がありました。
移乗は抱え上げのみで行われており、腰痛リスクが高かった。
抱える介助方法では、ご利用者の身体を傷つける危険性があった
膝や腰に痛みを感じる職員もあり、離職につながる恐れがあった。
導入のプロセス
導入は、以下の5段階で段階的に進められました。
- 腰痛や課題の把握に関するアンケートをスタッフ向けに実施
- リフト業者による機器説明・操作体験会の実施
- 選定した機器の操作説明会の実施
- 移乗アセスメント方法のルール策定
- 導入後のアンケート実施
また、当時のスタッフがこれらの取り組みを資料としてまとめており、現在もプロセスを振り返ることができます。
説明会の内容は動画として記録し、事後確認できるようにしているほか、現在も年1回、業者による定例勉強会を継続しています。
プロセスを踏む上でのポイント
いきなり導入しないという選択
宝塚せいれいの里の特徴は、「すぐに機器を導入しなかった」点にあります。
全職員を対象に、
- つらさの程度
- 危険度
- 腰痛の有無とその発生場面
のアンケートを実施。これらを整理することで、現場の課題を客観的に可視化しました。
その上で、「回答にあがった上位の課題は介護機器で解決できる」と示し、介護機器の必要性を現場に伝えました。
現場の声をもとに課題を整理し、その解決策として機器導入を位置づけたことで、現場の納得感を得ることができている
もう一つの大きな特徴は、機器選定のプロセスです。
- 展示会などへ出向き情報収集を実施
- 複数機種の体験
- リフト業者によるデモ・研修の実施
を行い、現場職員自身が機器を体験したうえで、導入機器を選びました。
衛生管理者は当時を振り返り、次のように話します。
「リフト導入前は腰痛ベルトを配布していましたが、それだけでは防ぎきれず、離職につながるケースもありました。そこで、スタッフと一緒に展示会へ行き、“これがいい”“あれがいい”と意見を出し合いながら選定を進めました」
従来は、現場で使う職員が機器選定に関わることはほとんどありませんでしたが、実際に使うスタッフが主体的に選ぶことで、「自分ごと」として捉える意識が醸成されました。
「現場が良いと思わないと、導入しても使われない」という考えのもと、風土づくりにも力を入れていきました。
「導入されたから使う」のではなく「自分たちで選んで使う」という意識が自然と生まれる
この施設の取り組みの中でも、特に特徴的なのがフローチャートによる判断基準の整備です。
誰でも同じ判断ができる設計
現場からは当初、「どの利用者に使えばいいのかわからない」という声が予測されました。
そこで導入したのが、YES/NOフローチャートです。
これらを順に確認し、リフト使用の必要性を誰でも判断できるようになりました。


ケアプランへの明記や居室表札へのシール表示を行い使用を徹底することで、「わかっているけど使わない」という状況を防ぎ、現場での運用を徹底している
導入当初は、リフトを使用する手間への抵抗があり、使う職員と使わない職員が分かれる状況も発生していました。
このような現場の状況に対しては以下のような対応を行っています。
- 導入初期は2人介助で実施
- 慣れた後は1人介助へ移行
- 機器を各ユニットに配置
- 必要な台数を確保
男性スタッフが多い現場であっても、力に頼らない介護の必要性を再確認していった
「使いやすくする」のではなく「使わないと回らない状態をつくる」という運用を行っている
導入の効果
導入後のアンケートでは、明確な効果が確認されています。
- 疲労感の軽減
- 身体的な痛みの軽減
- 2人介助が1人で可能に
- 事故の危険性の低下
- 利用者の負担軽減
- 内出血や表皮剥離の減少
- 面倒くさい
- リフトからの転落事故のリスクがある
- 壁などへの衝突リスク
実際の効果として、機器導入以前は腰痛による長期休職者や退職者が発生していましたが、導入後は休職者はほぼ見られなくなり、腰痛を要因とする退職者はゼロとなっています。
また、リフト導入は職員の就労継続にも影響を与えています。
「高齢の職員の中には、膝や腰の痛みから“このまま働けなくなるかも”と不安を抱えている方もいましたが、リフトの導入によって“もう少し働けそう”という声が聞かれるようになりました」
職員・利用者双方にメリットがあった一方で、否定的な意見も一部見られました。
成功のポイント
こちらの施設の取り組みが特徴的なのは、課題も明確に認識している点です。
- 抱えた方が早い場面がある
- シートの扱いが難しい
- 機器を取りに行く手間
- 使用には慣れが必要
- すべての利用者が対象ではない
- 浴室などでは抱え介助が残る
つまり、「万能ではないこと」を認識し、適切な使用ルールを整理し運用している点が非常に実践的です。
- 現場主体の選定
- ルール化
- 見える化
- 教育
- 配置
これらを積み重ねることで、現在ではリフトの使用は特別なことではなく、日常業務の一部として定着しています。

最初は“楽だな”という感覚から始まりましたが、今では“ないと大変でやっていけない”という存在になっています
また、リフト導入にあたっては、家族の理解を得ることも重要なポイントとなりました。
家族懇談会の場で実際の機器を見てもらいながら説明を行うことで、「利用者にとっても安心で負担の少ない介助である」という理解が徐々に広がっていきました。
一方で、見た目への違和感などから使用に対して慎重な意見が出るケースもあり、すべてが順調に進んだわけではありません。こうした点も含めて丁寧に説明を重ねたことが、最終的な定着につながったと考えられます。



リフト活用の成果は介護職員だけでなく、他職種や家族にも共有されています。家族向けの説明会では、実際の介護手法を説明することで理解が深まり、好意的な反応が得られています。介護職は「利用者ファースト」になりがちなので、利用者への良い影響をしっかり伝えることも大切だと感じています
振り返り
機器を使用することに対して「手間がかかる」という職員の声があったものの、6か月~1年ほどで現場に定着し、現在では「導入してよかった」という声が大多数を占めています。
当初は負担に感じられていた操作も、繰り返し使用する中で慣れが生まれ、今では日常のケアの一部として受け入れられています。
また、実際に身体的負担の軽減や安全性の向上といった効果を職員自身が実感できたことが、継続的な活用につながっていると考えられます。
その結果として、腰痛を理由とした休職者や離職者はほとんど見られなくなり、職員が安心して働き続けられる環境づくりにもつながっています。
さらに、ベテラン職員からは「機器が導入されたことで、もう少し長く働けそうだ」といった声も聞かれており、職員の就業継続にも良い影響を与えていることがうかがえます。
導入は、役職者だけで決めても現場はついてきません。スタッフ一人ひとりを巻き込み、全体の温度感を上げていくことが大切です。
宝塚せいれいの里について
宝塚せいれいの里は兵庫県宝塚市に位置し、介護付有料老人ホーム「結いホーム宝塚」、特別養護老人ホーム「宝塚すみれ栄光園」、介護付軽費老人ホーム「ケアハウス宝塚」などを有する高齢者複合施設です。利用者一人ひとりの尊厳を重視したユニットケアを実践し、安全で質の高い介護サービスを提供しています。
近年では、腰痛対策や業務負担軽減を目的とした福祉機器の導入・活用を推進し、現場の課題解決とケアの質向上の両立に取り組んでいます。職員の働きやすさにも配慮した環境づくりを進めている点も特徴の一つです。
設立
2014年4月1日
所在地
兵庫県宝塚市弥生町2-2
施設種別
高齢者複合施設
運営法人
社会福祉法人 聖隷福祉事業団